技藝院技藝院

技藝院 > 建築文化部門

建築文化部門

建築文化部門Architecture and Culture Department

建築文化部門の活動内容について建築文化部門長 大氏 正嗣

 「歴史的街並み」と呼ばれる景観が日本各地に存在します。技藝院が所在する高岡市にも、千本格子(さまのこ)の表構えが印象的な「金屋町」や「吉久」、土蔵造りの建築が建ち並ぶ「山町筋」といった歴史的街並みが現存し、それらはそこに住み続けてきた人々の生活の場であるとともに、重要な観光資源という一面も有しています。
 日本にとって、観光業は重要な産業の一つであり、観光資源となり得る歴史的街並みは守り伝えられるべきものとされています。では、歴史的街並みを守り、後世へ伝えていくためには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか?
 歴史的街並みを構成する代表的な要素として「建築」が挙げられます。建築と一言で言うのは簡単ですが、その構造形式は多岐に渡り、伝統木造建築はもちろん、近代以降の建築ではレンガ造や鉄筋コンクリート造などの構造形式が見られる地域もあります。それぞれの地域が有する歴史的街並みを守るためには、そこに存在する建築を守り、継承していくことが必須条件となります。当然ながら、それぞれの歴史的街並みがもつ歴史的背景や産業、人々の生業の様子などの文化的な要素を継承することも重要ではありますが、視覚的に街並みを構成する建築を継承することの意義は非常に大きいです。また、建築は文化の基盤となる生活の場という役割をになっており、「建築の継承」が「文化の継承」の基礎となると考えています。しかし、「建築を継承する」ことにこそ、歴史的街並み保全の難しさがあるのです。

旧富山銀行本店

建築の継承には複数の課題があります。代表的なものを紹介すると、まず第一に、老朽化や建築当時の法整備状況に由来する耐震性の不足など、建物の強度に関する課題。第二に、建築維持のための費用捻出に関する課題。第三に、歴史的建築物を保全していくためのノウハウや指針と言ったものが十分に体系化・整備されていないという課題。これらの課題は一見、独立した問題点であるように見えますが、実際は深く関係し合っており、歴史的建築物の継承のハードルを上げてしまっています。
 しかし、歴史的建築物の継承をなくして、日本の、そして日本に住む我々の財産である歴史的街並みの保全は成り立ちません。そして、失ってしまった歴史的建築物や街並みを取り戻すことはできません。だからこそ、多くの歴史的建築物が現存する今、歴史的建築物の継承が可能な環境を整える必要があると考えます。
 以上のような背景より、建築文化部門では歴史的建築物の継承に役立つ知見を提供するため、技術の開発や社会システムの構築に取り組みます。特に、技藝院の強みである最新の機器を積極的に使用し、これまでになかった切り口からの課題解決に挑戦します。
 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、珠洲や輪島をはじめとする北陸の各地が大きな被害を受けました。激しい揺れによる建物の倒壊や液状化による被害が顕著であり、生活の場を失った人々は少なくありません。北陸の研究機関として、地震によって被害を受けられた人々に対して何ができるのか、地域のためにすべきことは何であるのかを真摯に考える責務があると感じています。技藝院建築文化部門は積極的に地域復興へ協力していきたいと考えています。

①歴史的建築物等の点群データ化・コンテンツ化

 技藝院が所有する3Dスキャナを使用し、現存する歴史的建築物などの形状を点群データとして保存する取り組みを開始しています。点群データとは、三次元位置情報と色彩情報を持った点の集まりで形状を記録するものです。技藝院が所有する3Dスキャナで実際に計測された点群データの例を写真に示します。写真1は、旧富山銀行本店の外観を、写真2は富山県南砺市の福野行燈を点群データ化したものになります。点群データはVR空間へ落とし込むことが可能であるため、 観光PRや地域活性化への展開が期待されます。

  • 写真1 旧富山銀行本店の3Dスキャン

  • 写真2 南砺市福野行燈の3Dスキャン

②組積造建築物の補強

ネパールでは2015年にグルカ地震が発生し、多くの組積造建築物が倒壊するなど大きな被害を受けました。2016年以降現地調査に取り掛かり、ネパール唯一の国立大学であるトリブバン大学と共同で組積造目地の改良に取り組んできました。研究成果として、現地の赤土に石灰と岩塩を添加すると共に適切な水分量を保つことで、目地の強度が約3倍に高まることを発見しました。この研究成果は2018年と2023年に国際論文として発表しています。また、研究結果にユネスコのカトマンズ事務所およびネパール政府考古局が興味を持ち、共同で組積造建物の修復方法に関する研究を行うことを口頭で合意しています。本研究の途中、世界的なコロナウイルスの広がりにより3年ほど交流が途絶えていましたが、2023年より現地での打合せを再開し、新たに技藝院の有する機器や技術を活用して世界遺産を含む歴史的建築物の3Dデジタルアーカイブ化を行うことに関して議論を続けています。
また、組積造建築の再建にはネパール政府が厳しい規制をかけており、伝統的な工法を用いることは非常に難しくなっていますが、現地トリブバン大学およびコーパ工科大学と共同で、補強された組積造コミュニティーセンターの建設についても準備を進めており、技藝院で取り組んできた研究成果を具体的な社会実装に昇華すべく研究を進めています。

南砺市福野夜高祭

  • 写真3 カトマンズダルバール広場の世界遺産被災状況

  • 写真4 改良目地の現地試験状況

  • 実験結果_岩塩を添加した赤土の強度

建築文化部門のNews & Topics

一覧へ

Depertments

Share