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技藝院についてAbout


ごあいさつ富山大学芸術文化学部長 長柄 毅一

 2020年4月に設置されました「富山大学芸術文化学部附属技藝院(文化財保存・新造形技術研究センター)」は、これまで培ってきた伝統的工芸の技術を基に、3D CADや3Dスキャン、三次元造形などデジタル技術を積極的に取り入れることで、様々な有形文化財の修復技術を確立することを最重要課題の一つとして活動しています。主な対象である有形民俗文化財は、たとえば祭りなどの伝統行事や風習に使用される道具などです。これらは実際の使用により消耗や破損が生じることがあり、そのため文化資産として適切に管理し、伝承していく必要があります。元々の姿に限りなく近い形で保存修復していくことが、地域の伝統や歴史を正確に伝承していく上で不可欠です。その際、伝統的な技術に敬意を払いながらも、現代の様々な先端技術を取り入れることが有効な場合が多くあると考えています。

 また、こうしたデジタル技術による新しい造形技術は、ものづくり分野においても非常に有効な手段として利用されています。新しいアイディアやデザインを身の回りのモノに反映させるには、費用対効果や時間対効果に優れた方法として、これからのモノづくりに必須の技術となります。ここで培った手法は、学生のデザイン教育に展開され、本学部にとっても重要な役割を果たすことが期待されます。特に、令和の産業革命ともいうべき生成AIの登場によって、芸術やデザインの現場でも技術革新が進んでおり、これらデジタルによる造形技術を教育に取り入れていくことで、今後末永く世の中で活躍できる人材を継続して輩出することが期待されます。
さらに、文化財修復の成果や新造形に関する情報を、バーチャルミュージアムという新しい形で、公開していくことも検討しています。現在はまだ構想段階にありますが、デジタルによるモノづくりと相性が良く、アイディアの創発から具現化までのプロセスをより活き活きとわかりやすく公開することが可能と考えています。
この冊子には、これまでの文化財修復や新造形に関する成果を紹介しております。興味をお持ちいただければ、共同研究などによる技藝院とのコラボレーションを検討いただきたく、よろしくお願いいたします。

富山大学芸術文化学部長 長柄 毅一

技藝院設立技藝院センター長 林 曉

 技藝院は正式には令和2年4月に正式にスタートしましたが、その数年前に文部科学省科学研究費の基盤研究Bを獲得した事で、研究に必要な3Dスキャナーや各種の3D制作用のアプリケーション、3Dプリンターなどの最新のデジタル機器を揃えることができたことから始まります。私たちの富山大学芸術文化学部は前身の国立高岡短期大学の産業工芸学科と産業デザイン学科がベースとなっており、平成17年に文部省の方針で富山県にあった3つの国立大学(富山大学、富山医科薬科大学、高岡短期大学)が再編統合される事になり、短大は芸術文化学部となり生まれ変わりました。短大時代から強力なリソースを持つ工芸分野の他にグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、日本画、洋画、彫刻、建築、キューレイションといった分野を揃え、小さいながらも総合大学の中にある美術系の学部として再スタートを切りました。特に工芸の分野は言うまでもなく伝統的な技術や手技が重要で、素晴らしい生活工芸や芸術作品は錬磨された技によって生み出されて来たことから、志のある人はそれぞれの分野や素材で多くを学ばなければなりません。工芸品制作において、素材を扱う技術、用途の選定、制作物の造形、加飾の妙、時代性などが絶妙なバランスで成り立った時に「技藝」と言う言葉が相応しいものになるのです。

 一方で現代における芸術的な創作活動は多岐に及び、その中でも特徴的なのがデジタル技術を用いた表現です。ゲームやアニメーションは言うに及ばず、音楽や映像、プログラミングを用いたインスタレーションやパフォーマンスは注目を集め、グラフィックデザインやプロダクトデザインでは欠くことのできない手法です。どちらかと言うと商業的な生産活動の中で発展し、既に無くてはならない存在となったデジタル技術ですが、これまで藝術表現の主流だったアナログの手法との相性は如何なものかを考える必要があります。音楽ではデジタル録音が当たり前になり、写真や動画も今やデジタル化して久しく、欠くことのできない技術となっています。これらの殆どがアナログな対象をデジタルの素晴らしい解像度で映し取ったもので、人間の鋭敏な感覚でも違和感なく受け入れられるものです。多くの人達に素晴らしい音楽や映像繋ぎ、共有できるメリットは絶大です。かと言って目の前で演じられた生のパフォーマンスがより強い説得力や感動を人々に与える事は誰もが経験して いることからも分かるように、どちらが優位であるかを論じる必要はないと 思います。既にアナログな手段のサポートとしてデジタル技術が存在し、デジタル技術を展開・発展させるためにアナログな思考が必要な時代が現代 です。しかし現代のデジタル技術や様々な手法は決して完成の域ではなく 未だ発展途上にあります。世界中の開発者や研究者が情熱を持ってこの分野の発展に挑んでいる理由は、将来に於いて更に有益で興味深い何かを生む 可能性が見えているからに他なりません。昔は固く冷たい計算機のような 存在に見えていたコンピュータが、今やデザインや音楽を生み出すツールになった事を多くの人たちが違和感なく受け入れていることは面白くもあり 不思議でもあります。デジタルネイティブの若者には当たり前でも、アナログ しかなかった時代を経験している私にはこのような急速な変化がある時代はとてもエキサイティングで、文化的にも大変大きなインパクトとして捉えています。
 これまで多く手掛けてきた地域の祭りに関わる屋台等の国指定重要民俗 文化財の保存修復は、以前から調査も修理技術もアナログな手法で続けられてきました。文化財の保存修復に必要な伝統技法は鍛えられた技術を 持つ専門家の存在が不可欠ですが、そのような技術者の養成も需要に追い付いてはいない現状は改善すべき課題です。本学は伝統的に各種の工芸技術に関しての教育・研究が盛んなことから、そうしたアナログ手法と最新の デジタル技術を組み合わせることにより様々な課題解決が図れるものとの確信に至りました。富山大学は総合大学であることから、技藝院においても 他学部との連携が可能で、当学部で解決が難しい問題などに対しては これまでにも工学部や医学部と協力した調査、研究、制作の実績があります。
 技藝院の五つの部門(文化財保存、建築文化、デジタルミュージアム、デジタル ファブリケーション、デザイン)は、それぞれに旧来の鍛えられた手技や能力と最新 のデジタル技術を融合し、芸術文化の保存発展に教育・研究・社会とのつながりを通して貢献し、北陸における中核拠点になる事を目指しています。

技藝院センター長 林 曉

技藝院組織配置専門分野一覧

  • 文化財保存

    • 林 曉(漆芸/文化財修復)
    • 長柄 毅一(金属材料学/文化財科学)
    • 島添 貴美子(民族音楽学/伝統文化論)
    • 清水 克朗(美術鋳造)
    • 小川 太郎(漆芸/木工)
    • 幸 亮太(日本画)
    • 田邊 元(スポーツ人類学/文化人類学)
    • 新谷 仁美(漆芸/文化財修復)
  • 建築文化

    • 大氏 正嗣(構造デザイン/数理的配置計画)
    • 上原 雄史(建築意匠/建築設計)
    • 萩野 紀一郎(建築設計・保存・再生)
    • 籔谷 祐介(コミュニティデザイン/建築計画)
    • 井上 祥子(木質構造/数値解析法)
  • デジタルミュージアム

    • 三宮 千佳(日本・東洋美術史/博物館学)
    • 辻合 秀一(デジタルテクノロジー)
    • 藤田 徹也(情報処理)
    • 三上 拓哉(デジタルアート)
  • DF(デジタルファブリケーション)

    • 内田 和美(プロダクトデザイン)
    • 長田 堅二郎(現代美術/立体造形)
    • 平田 昌輝(彫刻/塑造)
    • 石川 将士(鋳金)
    • 今井 紫緒(3Dモデリング/デジタルアーカイブ)
  • デザイン(広報・プロモーション)

    • 岡本 知久(グラフィックデザイン)
組織図

★は部門長 メンバーは芸術文化学部教員、研究員から構成

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