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デジタルミュージアム部門

デジタルミュージアム部門Digital Museum Department

デジタルミュージアム部門の
活動内容についてデジタルミュージアム部門長 三宮 千佳

 本部門は、デジタルテクノロジーを活用し、技藝院で得られた成果物を社会に発信する手法の研究・開発やコンテンツ制作が主な活動内容となっています。部門長である安嶋是晴准教授(文化政策論)をはじめ、辻合秀一教授(デジタルテクノロジー)、藤田徹也准教授(情報処理)、三上拓哉特命助教(デジタルアート)というメンバーで構成されています。
 実際に活動を開始したのは令和5年度からであり、設備整備や各部門から得られた3Dデータ等の成果物を整理しつつ、デジタルでどのように表現していくかについて取り組んでいます。近年では計算機内に構築された仮想空間やサービスを提供するメタバースという概念が注目され、企業では自社のオフィスをバーチャル空間で公開したり、それを活用したイベント等も実施されたりするようになりました。またメタバースを体験するための機器(ヘッドマウントディスプレイ)も廉価化が進み、研究者や開発者以外の人であっても入手しやすい状況になってきています。このように気軽に仮想空間やそのサービスを体験するためのハードルが下がる一方、実際の仮想空間で楽しんだり、コミュニケーションを行ったりするコンテンツや方法は不足しており、仮想空間ならではの体験方法やコンテンツ制作の方法論が求められています。

図1 バーチャルミュージアム仮想展示空間の試作(Unreal Engine 5.3)

 現在ではデジタルテクノロジーが大きく発展し、スマートフォンのカメラで撮影した画像から3Dデータを作成するフォトグラメトリといった技術や、赤外線を利用することで物体の形状を測定し、3Dデータを作成するLiDARスキャナがiPhoneに搭載される等、身近な機器を用いて3Dデータを作成することが可能となっています。しかしこれらの技術によって作成された3Dデータは精度としてまだ足りないことや、そのデータを公開するプラットフォームの整備も十分でないといった問題があります。このような問題に対し、デジタルミュージアム部門では、物体を高精度に記録できる3Dスキャナを活用し、高品質な3Dデータを作成する手法の構築を行っています。
 また、このような手法を活用し、文化財をはじめ、魅力ある芸術品や研究の成果物を発信するため、富山大学発のデジタルミュージアム空間の制作に取組んでいます。前述したように仮想空間で魅力あるコンテンツ体験が求められている中、未だその方法論は構築されておらず、企業や大学では日々模索しながら研究開発が進められている最中です。そしてこれまでアナログ的な手法によって記録されてきた文化財を、仮想空間でどのように表現すれば満足度の高い鑑賞体験を提供できるのかが大きな課題となっています。この課題に対し、Unreal EngineやUnityといったゲームエンジンを用い、3Dデータの品質を維持しつつ、データ量を削減して仮想空間で鑑賞できる方法の構築を行っています(図1)。
 これに並行して本学部の工芸史・工芸技術史研究室と連携し、研究室に収蔵されている美術品コレクションの3Dデータ化を行っています。このコレクションは旧高岡短期大学から引き継がれており、本学で美術、工芸、デザインを学ぶ学生や教員が資料として使用できるよう3次元的に美術品を鑑賞できるデータベースの構築も進めている段階です。これらの3Dデータ化された美術品をデジタルミュージアムのコンテンツとして利用するためには、高品質・高精度な3Dデータが求められます。ただし、あまりにも高精度な3Dデータを使用してしまうと現在の計算機の性能でも描画処理に多大な負荷がかかってしまい、鑑賞したい3Dデータの描画に時間が掛かることがあります。これはリアルタイムでスムーズな鑑賞を提供することができず、魅力ある鑑賞体験を阻害することに繋がります。そのために、スムーズな鑑賞が可能となるように3Dデータとしてある程度の正確性を担保しつつ、ポリゴンデータを削減し、見た目(テクスチャ)を高精細なものを使用することにより、高品質な3Dデータとして鑑賞できるコンテンツ制作を進めています(図2)。
 さらに、有形文化財のみならず、踊りや祭りといった無形文化財のデジタルアーカイブを可能とするために、人間の身体動作を記録するモーションキャプチャ機器の整備・活用方法の構築も進行中です(図3)。例えば本学部のキャンパスが位置する富山県高岡市では、全国で5つしかない国の重要有形・無形民俗文化財の両方の指定を受けている「高岡御車山祭」が行われています。また富山県を代表する行事である「おわら風の盆」では、代々継承されてきた舞踊が大きな価値となっており、この舞踊を見るために全国各地から観光客が訪れます。このような祭りや舞踊といった無形なものであっても、記録できるのがモーションキャプチャ技術であり、技藝院ではNoitom社のPerception NeuronやSony社のMocopi等を整備し、これらの試験運用を進めています。前述した有形文化財の3Dデータ化を進めるとともに、無形文化財をデータ化するノウハウと組み合わせることで、従来再現が難しかった仮想空間でのお祭り体験や、職人の動作を追体験し、継承が困難であった手業を次世代の教育・資料として活用できます(図4)。
 このようにデジタルミュージアム部門では、アナログ・デジタルの境界を超えた手法の研究開発を行っており、直近では富山大学発のデジタルミュージアムの公開を目指しています。このデジタルミュージアムで公開されるコンテンツでは、限られた美術品のみならず、地域に存在する文化財や、本学の他学部がそれぞれ有する研究成果を公開する場として活用できる場としての使用も検討しています。そして研究のみならず教育への還元として、仮想空間を利用したモデリング体験や、モーションキャプチャを利用した身体情報の記録・応用方法を学生が体験でき、制作・研究に役立てることができる教育プログラムの検討も進めています。

図2 簡素化したポリゴンモデル(左)に高品質なテクスチャを適用(iReal 3D Mapping)

図3 モーションキャプチャー(Mocopi)を使用した3DCGアニメーションの作成

図4 仮想空間上でのお祭り疑似体験(Unity 2022.3.19f)

図5 Stanford Bunny, Mammuthus primigenius (Blumbach)
©Smithsonian 3D DIGITIZATION

図6 バーチャルミュージアム仮想展示空間の試作2(Unreal Engine 5.3)

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