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その他の事項

2024.7.24

アンビューバッグを使った 持ち運びできる緊急用人工呼吸器の開発 技藝院センター長 林 暁


 2020年が明けたころ、世界に“Cobit19”「新型コロナウイルス」が蔓延し始め、富山大学芸術文化学部では、不足しているフェイスシールドや、感染防止用のフルフェイスの防護マスク、耳の痛くならないマスクフック等を製作して富山大学病院に送りました。その中で思いついたのが、緊急時に用いるアンビューバックを用いた人工呼吸器で、調べ始めるとMIT(マサチューセッツ工科大学)のホームページに大学院や博士課程の学生が中心に開発したものの設計図が3Dデータとして掲載されており、作動プログラムまで手に入る状態でした。そこで富山大学病院にこのプロジェクトを進めても良いものか相談することにしました。病院長の林篤志先生をはじめ、多くの先生方にお集まりいただいて相談に乗って頂きました。当時はこの事態がどのように進展していくかの予想もつかない状態でしたから、他国で生じていた惨状が我が国に広がる可能性もあり、最後には病院長の判断で開発することへの賛同を得られました。
 MITのホームページに公開されていたソースコードはあったものの、プログラミングに関する専門知識は工学部の先生を頼る他はないと考え協力を依頼しました。その中で手を挙げてくれたのが工学部の戸田英樹准教授で、専門は動的ロボティクスです。メールのやり取りでお互いの進捗具合を確かめ、意見を出し合いなら、三か月余りで三台の一号機が生まれました。
 当初の目的を満たし完成した試作一号機を大学病院に持ち込み、披露しましたが、ある先生から、「もう少し小さくて軽いと良いかも知れませんね」という言葉を頂戴し、製作する中で、確かに大きく重く武骨な本体の設計とギヤによる駆動方式の整合性に疑問があったので、2号機の設計に取り掛かりました。

MITの有志が設計したものを参考に製作した1号試作機。
手前が大学病院に相談した時に持参した1/2モデル。

ベルト駆動でリニアにスライドするパッドに設計変更し、モーターを日本製にして小型軽量化した2号試作機。

 2号機の設計における変更点は、ギヤによる駆動方式をタイミングベルトに変え、動力となるモーターを中国製から日本製に、筐体の設計をやり直して小さく軽く作り直した点です。この間にプログラムもバージョンアップして磨がかかりました。日本国内でも次第に、ワクチンの開発や接種、医療体制が整うなど、コロナウイルスに対応できる体制が整って、緊急時の人工呼吸器の必要性は事実上なくなってきました。当初から、この機械の出番がない方がよいと考えておりましたので、危機を乗り切りつつある現状に安堵しました。
 その後開発した3号機は、2号機の欠点(組み立てにくい、やはり少し重い、持ち運びの利便性、電源の確保等)を考慮して、災害や事故の救助活動や開発土壌国での活用などを考えて設計しました。また、大きな特徴として、これまではAC100V電源での駆動でしたが、汎用18Vバッテリーも使えるような2Way電源とし、可搬性のあるものとしました。
 2023年11月には「メディカルクリエーションふくしま」という医療機器の展示会に富山大学として参加し、医療
関係者からこの呼吸器の新たな使用方法の可能性などの提案を頂くなど、実り多い機会となりました。
 地域の国立大学として、その特性を生かして社会的な問題に向き合って行動できることに大きな意味があると考えます。富山大学の教員としてこのような開発活動ができたことを誇りに思うと同時に、今後も学部を超えた協力が推進され、新しい価値が生まれることを期待します。

2号機をさらに軽量化して組み立てやすさを図り、汎用のバッテリーでも作動するように改良した第3号試作機

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